全若手芸人が罹患した「松本人志病」「ダウンタウン病」とは?
お笑い界には、ある種の「感染症」が存在します。その名を「ダウンタウン病」、別名「松本人志病」と言います。
一言で言えば、「ダウンタウン、特に松本人志さんの話し方・ボケ方・芸風に影響されすぎて、自分のスタイルを見失ってしまう状態」のことです。
はしかのように、全員がかかる
この病を芸人たちの間で広めた張本人のひとりが、東野幸治さんです。あるトーク番組で東野さんはこう語っています。
「僕とか児嶋さんとかは皆かかる、"ダウンタウン病"っていうはしかがあるんですよ。ダウンタウンさんがデビューして世の中にバーっと出てきた時に、その後の後輩、全員がダウンタウンと同じような漫才をするんですよ」と。
「はしか」という表現が秀逸です。かかることを避けられない、通過儀礼のような病気だという意味が込められています。
罹患者たちの証言
具体的な罹患例として東野さんが挙げたのが、アンタッチャブルの山崎弘也さんです。
現在のアンタッチャブルといえばザキヤマの大げさなリアクションと柴田英嗣さんのツッコミが持ち味ですが、かつての山崎さんは「引き芸」だったといいます。
口数を少なくし、ボソッとボケて、柴田さんが大きくツッコむというスタイル。楽屋ではめちゃくちゃ喋るのに、舞台に上がると急に静かになる。まさに松本さんの芸風を模倣したものでした。
アンジャッシュの児嶋一哉さんも同様に告白しています。「僕も松本さんになりたかったからボケやってたんで、ボソっとボケて。僕の場合ウケないんだけど、ボソっとボケてツッコミの人がだいたい『殺すぞ!』みたいな(口調になる)。浜田さんに影響されて」と。
つまりボケが松本さん、ツッコミが浜田さんを模倣するというセットで感染するわけです。
主な症状
ダウンタウン病の主な症状は次のようなものです。無表情でボソッとボケる「引き芸」への傾倒、笑いに対して過度に斜に構えた態度、「すべったらカッコ悪い」という恐怖心からくる過剰な自己防衛、そして「松本さんに面白くないと思われたら嫌だ」という呪縛です。
M-1グランプリで、松本さんが審査員をされていたときに、「松本さんに認められなかった終わり」と考え、結果に絶望していたお笑い芸人が少なくなかったのです。
いかにたくさんのお笑い芸人が、松本病に罹患していたのかを証明していますね。
なぜ感染するのか
ダウンタウンが1980年代後半から90年代にかけてお笑い界に与えた衝撃は、それ以前の芸人文化を根本から塗り替えるほどのものでした。
吉本総合芸能学院(NSC)の1期生として、伝統的な師弟制度の外側からデビューし、かつて「悪質な笑い」と批判されたような既存の価値観を壊すボケで時代を席巻した。
その影響は芸人だけにとどまらず、東西を問わず50代以下のほぼすべての人が多かれ少なかれ松本人志さんの世界観の洗礼を受けていると言われるほどです。
芸人を目指す若者にとって、ダウンタウンは単なる憧れではなく、「笑いとはこういうものだ」という定義そのものでした。だからこそ、無意識のうちに模倣してしまうのです。
ダウンタウンは、笑いの形そのものを大きく変容させた、音楽の世界で言えばビートルズのような存在だったのです。
完治した者から売れていく
東野さんの言葉の中で最も印象的なのはこの一節です。
「僕ら、全員それを経てる。1回、負けてから始まるんですよ」。ダウンタウンを真似しても超えられないことに気づき、自分なりのスタイルを確立した人間から順番にブレイクし始めていった、というのです。
山崎さんは「引き芸」を脱してリアクション芸で独自のキャラクターを確立しました。
児嶋さんは「児嶋、お前が空気読めよ!」という独自のフォームを見つけました。病を経て、病を抜けた先に自分の笑いが待っていたのです。

