松本人志が語ったお笑いの本質「1周目でええのに…」、そして裸芸の強さ
今回は、松本人志さんが口にした「1周目でええのに」という言葉を手がかりに、複雑化する現代のお笑いの傾向について深掘りします。
裸で笑いが取れる理由
今年1月、とにかく明るい安村さんがパンツ一丁で雪山に立っていました。なぜ笑えるのか。そこを掘り下げてみます。
「裸で笑いを取る」という行為は、昨日今日に始まったことではありません。忘年会の席で誰かが突然服を脱いで場を沸かせる光景は、太古の昔から繰り返されてきました。
なぜ笑いが起きるのか。それは「その場でいちばんスーツが似合いそうな人」が脱いだとき、最も大きな笑いが生まれることを考えると見えてきます。
部長が脱いだほうが、新人が脱ぐより笑える。笑いの正体は「落差」にあるのです。
服を着ることは、社会に属することである
アダムとイブが楽園を追われ、恥を知り、衣服をまとった瞬間から、人間にとって服を着ることは単なる防寒ではなくなりました。
スーツには「私はルールを守ります」という意思表示が縫い込まれています。制服には所属が、礼服には敬意が込められている。
つまり人間は、服を着ることで「社会人」になります。裏を返せば、脱ぐことは社会からの逸脱です。あらゆるしがらみ、肩書き、建前を文字通り脱ぎ捨てる行為。それが裸芸の本質的なフリになっています。
ヒューマン中村よりアキラ100%の方が印象に残りやすい⁉
R-1で過去6度の決勝進出を果たし、創作漢字や精巧なフリップネタで知られるヒューマン中村さんは、笑いの設計図がしっかり見える「お笑いIQ」の高い芸人です。それでも長年、R-1の頂点に届きませんでした。
一方、全裸にお盆一枚でR-1グランプリ2017を制したアキラ100%さん。「見えるか見えないか」ただそれだけです。しかしこれは「脱げば勝てる」という単純な話ではありません。
アキラさん自身が「普通に服を着たコントでダウンタウンのお二人を笑わせる自信なんて今もない」と明かしているように、あらゆる武器を検討した末に選んだ最終兵器が全裸だったのです。
知性で積み上げたネタより、社会的な衣を全部脱ぎ捨てた人間が勝つ。このパンチ力こそが裸芸の本質です。
「3周目より1周目が見たい」
小峠英二さんは近年の賞レース傾向について「もう少し単純でバカバカしいネタでいい」と指摘し、松本人志さんもM-1でたくろうさんが優勝したことについてこう語っています。
「あんだけシステマチックな人がいたら、『たくろう』みたいなアホっぽいやつが勝つわな」と。
さらに賞レース全体への私見として残したのが「今は3周目ぐらいを見せられてる。1周目でええのに」という言葉です。
複雑な伏線、緻密な構成、論理的な整合性。「3周目」のお笑いが飽和するとき、全裸にお盆一枚という「1周目」の笑いが最も鮮烈に刺さる。
裸は最も正直な衣装である
コンプライアンスが強化され、お笑いもどんどん「安全」になっていく時代に、裸芸人の需要が衰えないのはそのためではないでしょうか。
舞台の上で全部脱ぎ捨てて平然としている人間を見ると、笑いながらどこかで「ああ、いいなあ」と羨望してしまう。
笑いの奥底にあるのは、共感と解放です。
裸芸人は観客の代わりに、社会という衣服を脱いでいるのです。だから私たちは笑い、そして少しだけ軽くなる。それが、パンイチ芸人が時代を超えて求められる理由に他なりません。
高田豪(大阪お笑い塾・代表)
